ある日、ふと思い出した昔の暖かい思い出。 そんな事を小説にしてみたい! そんな男の場所です。


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装甲騎兵ボトムズ 外伝 2
第2話 「出会い」

アストラギウス歴 7195年6月11日 惑星ノウハン 惑星時間 Am02:00

「ケッ!クソッタレな作戦にクソッタレな指揮官じゃあよ!死んでこいって言ってるようなもんだぜ!」

文句を言いながらも、愛機であるAT(アーマード・トルーパー)の椀部関節を調整している長身の男(シヤコ・バ・ゴッショ)が見える。

「確かになぁ…あちらさんの要塞を崩すには戦力も足らんし、なにより力押しのみしか見えんこの作戦には…なぁ…」

シヤコの隣では、長身で細身のムラカ・ワケイが操縦席に座り、天井を見ながらつぶやいていた。

我々は10日前。惑星ノウハンに降下し、すぐさま敵の前線本拠地であるランテン要塞攻略の任務についていた。

現在戦闘はこちらが一方的に攻めている状態ではあるのだが…、攻めているように見えて、敵の砲撃の雨に足止めをくらっていて、進めない状況となっている。

作戦…なんていうものは皆無で、丘陵地帯にある敵要塞の攻略ポイントの一つであるわずかな平坦なヤマテ平原には友軍の残骸が無数に転がっている。

このヤマテ平原は敵側からすれば視界を遮るものはなく、絶好の射撃訓練場程度に思われているのかもしれない。友軍は射程距離に入っても、攻撃できるのは要塞の防壁だけで、防壁の隙間から攻撃してくる敵を攻撃することができない。

では航空兵力で攻撃してはどうだろう?

これも無残な結果に終わった。要塞からの対空攻撃と防壁の厚さは尋常ではなく、現在のメルキア軍の航空兵力武器では破壊は不可能だった。その上、破壊できないとわかっていながら何度も航空兵力を投入したことにより、航空兵力は惑星ノウハンに降下させた部隊の約3/4を失ってしまった。

そうとわかっていても尚、ヤマテ平原より強攻作戦を続行させようと考えている司令部。

何故こんなにもこの惑星に拘るのか?

作戦に参加した全兵士、その答えを知らなかった。

しかし軍上層部はなんとしてもこのノウハンを占領し、何かを得ようと考えているのは確かだ。

だが…

「突入!」「一時撤退!」の繰り返しが続いていく中、戦友と呼べる者の大半は、あのヤマテ平原で鳥や虫達の格好の食料になるか、炭となってしまっている。

俺は何度も突入開始前に思ってしまう…

「次は俺があいつ等と同じようになるのか…」と。

自分の死に場所すら選べないこの理不尽な作戦に、誰もが落胆していた。

しかし無常にも第7次攻撃の命令は下された。

メルキア軍の本拠地であるサイサ。あと数刻で我々は出撃しなければならない…生きてまたここに戻ってこれるのか?それは誰もわからない。

「おい…おい!。ダサワ…ダサワ曹長!」

ふと気付くと私は名前を呼ばれていることに気付いた。

「え?あっ…」

「…大丈夫か?顔色が悪いようだが…」

私の顔色を覗き込むように見ている男…一体誰だろうか?

「同じ降下部隊になったガワー・ヤナだ、階級は同じ曹長だ。まっ堅苦しい挨拶は抜きでいこうや」

「よ…よろしく。キユウ・ダサワです」

「よろしくな!…しかし…まだ若いな。いくつだ?」

「はい、19です」

「19!?俺の2つ下か!…もっと下に見えるな」

「え?そうですか?」

「まぁお互い年も近いのは何かの縁だ。よろしく頼むぜ」

「こちらこそ…よろしくお願いしますヤナ曹長」

「おいおい、1分前に「堅苦しいのは無し」って言ったばっかだぜ?普通にヤナって呼んでくれ」

「あ…そうです…そうだな。よろしくヤナ」

「おう!」

まだ見たこともないが、地獄というものよりひどいと思うあの場所へ赴く前に、少しばかり気持ちが楽になった私は、そのまま彼と談笑を続けた。

「それはそうと、他の連中は前から一緒の部隊なのか?俺は昨日降りてきたばっかでよ」

「いや、俺も今日始めて会う人達が多いな、シヤコ上級曹長とはこれが三度目の出撃だけどね」

「三度!?ってことは…」

「あの第5次攻略戦から一緒さ、俺の場合第3次戦から参加だけど、彼は第1次からの生き残りだよ」

「…そうか…」

「第5次で、俺の戦友と呼べる連中は皆…」

「言うな」

私の言葉を遮るように、ヤナは言った。彼も別の戦地で同じような体験をしたのかもしれない。

「今、お前は生きてる、そして俺と話してる。先に逝った連中の話はタブーだ…な?」

「そうだね…」

「あそこにいるのは知り合いか?」

この話を続けて、暗いムードになるのを呼んだのか、ヤナは他の話題に切り替えた。

「え?…いや、今日初めて見る顔だな…そして機体も」

「なんなんだありゃ?」

輸送機の格納庫の一番中央に座しているということは指揮官クラスなのか?いやそれよりも気になったのは、その機体の背部ザックだ。

ザックとはいえないほどの巨大な2本の突起物、そして中心にあるコンテナ状の物体、あれはなんだ?

「なんだろう…あれ…」

「砲身?じゃないな、砲口がない、なんの武器だ?」

「さぁ…」

「ちょっと行ってみようぜ?」

興味津々のヤナの顔は、まるで子供のような顔だった。

近場で見ると、その大きさに驚かされる、2本立っている突起が、ちょうど頭部の間を通り抜けて、前に倒れるようになっているらしく、これが前に倒れた時何かをするのだろうか?

さらに背部のコンテナの上に、円形の物体が見える。

「レーダーと無線機かな?」

「こんな馬鹿でかい無線機があるのか?」

「う~~ん…」

しばらくそれを見ていると

「お前達も気になってたのか」

奥にいたシヤコとワケイがやってきた。

「おっと、あんたにはまだ挨拶してなかったな。離陸しちまう前に声はかけようとおもってたんだ」

「は!お前達の声なんざ、この狭ぇ格納庫内に響いて聞こえてらぁ。年は俺の1つ下だなヤナ曹長」

「お~~自己紹介の手間が省けてよかった。シヤコ上級曹長殿、これからよろしく!」

「おう!ああ、そうそうこいつとは同い年だな、よかったじゃね~か、なぁ?」

そういうと、謎のATの背部サックを見ていたワケイがこちらに振り向いた。

「ムラカ・ワケイ曹長だ、階級も年も同じ奴がいるのは奇遇だな。よろしく頼む」

「こちらこそ」

ワケイが差し出した右手を強く握り返すヤナ。その時私は、なぜかこの人達と長い付き合いになりそうだな…と思っていた。それがなんの直感なのかはわからない。ただ、そう思っていることが現実逃避なのか?

まぁいい。そう思えるのはいい兆しなのかもしれない。先ほどまで暗くなっていた私の心は、少しづつ明るくなっていった。

「お二人もこの機体を見るのは初めてですか?」

「ああ」

「こんなもん見たこともね~し、敵から見たら目立って、いい的なんじゃね~のか?」

3人が背部を見ていると、ワケイが他にも何か見つけたようで、私達を手招きして呼んでいる。

「これ見てみろ」

「っつ!」

「なんつ~~でけぇ盾だ!」

腕部に装着されている巨大な盾、背部にばかり注意がいってしまい気にもとめてなかったが、近くでみると4枚の複合装甲とスライドが見えた、このスライドで、4枚の盾それぞれがスライドするとなると、上、横、斜め上に展開されることになり、さらに反対の腕にも装着されている。この盾はこの機体だけをカバーするならこんなにもいらないはず…一体何に使われるのだろうか?

そしてさらに驚いたのは、この機体には武器はショートレンジマシンガンしか持っていないことだった。

こんなにも大きな背部と盾を持っているのなら敵から狙われるのは必至。盾の隙間から狙撃するにはショートレンジマシンガンでは集弾率、射程がどれも足らない。いや、逆を言えば、メルキア軍の標準ATであるスコープ・ドッグが通常携帯するマシンガンではどちらにせよこの盾を有効に使っての狙撃は不可能。

「…これに乗る奴は馬鹿か?」

シヤコの言葉には他の意味もあったと思う。

これだけの装備(背部サック、盾、機体も含めて)の重量では、スコープ・ドッグの最も優れた武器であるローラーダッシュ(RD)の有効性がなくなってしまうのではないか?
仮に走れたとしても重量のせいで通常速度もだせず、足手まといになるのではないか?
一体この機体は何なのだろう…

「まぁここで議論してても仕方ないっしょ、とりあえず指揮官様を待ちましょうや」

ヤナの一言で、その疑問と一旦お別れし、私達は再度、自機のチェックに取り掛かった。
輸送機が発進するまで後15分。

未だに指揮官は現れない…



アストラギウス歴 7230年 メルキア本国のとある住宅地

「7195年に起こった出来事?ええ、覚えていますよ・・・時刻までしっかりとね」

当時を思い返す初老の男は、少し遠くを見つめて話を始めた。

「あれは7195年の6月11日、そう確かノウハンの衛星5つのうち3つが良く見える夜で…第7次攻略作戦前の慌しい中の出来事でした…」

AM02:15 サイサ通信室内

「わかっています…ええ…無茶は致しません…ええ…え?…ああ、作戦指揮官ですか?…あまり言いたくはないですがねぇ…ええ…」

本来ATパイロットが立ち寄るような場所でもない通信室に巨漢の男がヘッドホンとマイクを通信兵から取り上げて話している。

巨漢というよりも脂肪の塊…といいたくなるようなその男は、頭部に滲む汗を手で払いながら会話を続けた。

「例の男ですよ…もうわかるでしょ?…ええ、奴ですよ。おかげで7次作戦にまでなってしまいましたよ。…ええ、まぁ実験にはうってつけ…とでもいいましょうか。…ええ…配置?もちろん最前線ですよ」

その言葉の後に大きな怒鳴り声が聞こえた。と後に隣にいた通信兵は語っている。会話の内容はまったくわからなかった…と…。

「!そう怒鳴らないでくださいよ!仕方ないでしょ~…ええ、わかっています。それでは閣下。次の予定の件、お忘れにならないで下さいね…はは。またご冗談を…ええ、よろしくお願い致します。では通信終わります」

「ふぅ…」

ため息をついたその男は、腕時計を見て少し焦り始めた。パイロットスーツを着ているのだから7次作戦の要員のはず、とっくに他のパイロットは輸送機に搭乗しているのに…

通信兵の一人はそのことが不可解でならなかった。巨漢の男は小さく礼を言ってヘッドホンとマイクを返した後、小走りに部屋を出ていった。

一体どこと通信していたのだろう?

その通信兵は違反とわかっていながらも、通信記録を見てみることにした。 

しかし…今さっき通信していたはずの記録が残っていない。
そんなことはありえない!声もかすかに聞こえていたし、怒鳴り声だってしていた。通信していたことは間違いない!なのに記録がでない!

すると先ほどの男が戻ってきて一言告げた。

「そうそう!記録はないよ。それ以上調べるのは辞めたほうがいい。首を突っ込まないほうが…君の将来のためだと思うから。では行ってまいります!」

気になる言葉を残し、廊下をドタドタと走っていく音が遠くなっていき、消えた。

どうしても気になる…こうなったら機密パスを使って先ほどの会話の記録を聞きだしてやる!
もちろんこれは重大な違法だ。たとえパイロットの一通信といえどそれを盗み聞くのは軍法会議物なのはわかっている。だが、今は私と他二人しかいない。
他の二人には後で根回しすれば、このことが発覚することもない。

機密パス MKR14B277MXS-58J…

30桁にも及ぶ機密パスを入力すると通信室の全データベースが表示され、さきほどの時刻の通信記録を探してみる…



あった!しかし保存先は一般の保存先ではなく、最高ランクのS通信記録になっている。
どうやらこれが記録が見れない原因だったのだろう。

さっそく会話を聞いて見る。

こちらで巨漢の男の声を省き、相手側の声だけにのみにして会話を聞くと…

「今回が君の要請のあった機体の初参戦となるが、今から行く場所が危険なのは…わかっているのかね?…ふむ…無茶は…うむ、わかっているならいい。そういえば指揮官は誰なんだ?……ん?どこの家のものだ?……ああ…ジオマ家のボンボンか…そうなるとまた被害が大きいかな?…ふむ…前線の兵には辛いものだな…そういえば配置はどこかね?…何ぃ!!最前線だと!!??先ほどもいったが無茶だけは…ふむ…ん?…あ~クルージングの件かね?…はは、わかっている既に増援要請はしてあるよ、明日には到着するだろう…うむ、では必ず帰還するように…ではな…」

…要請のあった機体というのはわからないが…
…ジオマ家のボンボン…
今回の総作戦指揮官である、リュウオ・ジオマ少佐のことか?

少佐をボンボンなんて、まぁ兵員の間の悪口としては呼んでいるが、躊躇なくそう呼んでいたとなると相手は少佐以上の階級?

そして、表示されていた相手の所在地を見て、私は驚愕した。

メルキア軍戦術研究機関 Melkia Armed forces Tactics Research Organization 通称MATRO

メルキア軍の全ての武器、戦術の研究を行う機関であり、ここの管轄はカーニ・モト大将直轄の部隊、研究員がいるエリート集団で結成された組織である。

通信記録の最後に表示されているのはMATROの部屋…それは…

MATRO総管轄室 室長室…つまり通信相手は…カーニ・モト大将??

それを知った途端、画面が強制切断され、次に表示されたのは…私への出向命令だった…

たった数分の会話の事実を聞きたいがために行った行為の結果…私は通信兵としての職務を終えることとなってしまった。

出向先は…本国。

地獄のような前線からの開放と同時に、私は半生の自由を奪われることとなった。
あの時、あの男の忠告を聞いてさえいれば…こんなことには…

しかし…本当はこれでよかったのかもしれない。
あのまま通信兵として職務を続けていれば…私もきっと戦友と同じ場所にたどり着く運命だっただろう。

本国で家族とも会えた。仕事も一応はある…ただ監視付の生活へのストレスだけ…
戦争が終わってから監視はなくなりましたが、それでも…あの地獄に比べたら…ここは天国でしかない…と思えてなりません。

7230年 元メルキア軍第2降下部隊所属、サイサ前線基地第1通信室勤務 デム・バーロン伍長リポートより抜粋

時は戻り…

7195年 AM02:27

各機のチェックも終わり、兵員待機室で私達4人は指揮官の登場を待っていた。

あの謎の機体のパイロットでもあり、俺達の指揮官…どんな人だろう?

「ケッ!一体いつになったら指揮官殿は現れるのかねぇ!なんだったら俺が指揮してもいいんだぜぇ~~」

硬い椅子が並ぶ待機室の椅子に寝そべりながら、シヤコが誰に言うわけでもなく言葉を空に投げる。

「確かに遅いな…一体どうなっているのだろうか?」

腕組みをしているムラカもさすがに待ちぼうけしているようだった。




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装甲騎兵ボトムズ 外伝
Lullaby of the red shoulder

「真実を知った日」

アストラギウス暦7230年10月17日

その日私は、一人で酒を飲みたくなり、立ち寄ったこともないバーの前で立ち止まった。

いつもなら酒を飲みたい、それも一人でなんて思うことなんて今までに一度もなかった。

だが、その日は別だった。

降りしきる重くボタボタと落ちる雨がそんな気分にさせるのだろうか…
肩まで濡れている今の状況を考えると、雨宿り程度でもいい、何か気を紛らわせる程度でもいい…
安酒でも気分を変えることはできるだろう。

そう決めて、店のドアを開ける。

店の名前を見るまでもなく、中に入る。

中は薄暗く、人気もない…

何より場所が場所だ。人もこないのだろう。

よく見るとカウンターの奥にその店の主人が見え。

「いらっしゃいませ…」

小さい声で主人は言った。大柄な格好に似合わない小声なのが印象的だった。

薄暗いわりにはこぎれいにまとめられた店内の端の椅子に腰をかける。

「ご注文は?」

グラスを拭きながら近づいてきた主人の顔がよく見える。

「あっ…じゃあ何か酒を…マスターのオススメの安い酒を」

「…わかりました」

すると主人が取り出したのは明らかに高そうな酒だった。

「え?ちょ、ちょっと!なんか高そうな酒なんじゃ…できれば安い酒がいいなぁ」

他にも見たことのある安酒はいくつも見えたが、店主は何も言わずにグラスに氷を入れ、酒を注ぎ始め、小声で語り始めた。

「今日は私にとって記念日なんですよ…お勘定はかまいませんので…」

…何か薄気味悪い感じもした、もしかしたらボッタクリなんじゃないのか?

そう疑っていると、目の前に先ほどのグラスが置かれた。

「どうぞ…」

正直飲むのも怖くなってきたが、もしこれがボッタクリ系の店だったら速攻で逃げればいい。

グラスを持ち、一気に飲み込む…

すると、今まで飲んだことのないようなうまさの味だった。

口の中に広がるかすかな甘み、これが熟成された酒のうまみなのだろうか?

「…ぷっはぁ…なんてうまい酒なんだ!」

そのうまさに思わず言葉が出てしまうと、表情がよく見えなかった主人の顔が和らいでいく。

「そうですか…お口に合ってよかった。もしよろしければもう一杯どうですか?」

「是非!」

今度はグラスが二つになり、主人と私の分が注がれた。

一杯目は一気に飲んでしまったので、今度は味わいながらゆっくりと飲むことにしよう。



グラスの酒が1/3くらいにまでなったところで、今まで黙って飲んでいた主人が口を開いた。

「この味を分かる方に飲んでもらってよかった…」

その表情は穏やかで、何かを懐かしむようなようにも見えた。

そして私は先ほどの主人の一言を思い出した。

「先ほど記念日と言っていましたが、何の記念なんですか?」

「いや…なに、昔の話ですよ。昔のね…」

「もしよければ聞かせてくれないかな?こんなうまい酒を飲ませてくれる礼として、私もその記念をお祝いしたい」

「長いお話になります…まぁ酒の肴程度に聞いてください」

「はい」

「…あれは35年も前の話です…」

この時は、主人の恋人か子供の誕生日なのかと思っていた。

だが、後に私はこのアストラギウス歴の中でもっとも過酷な時代の真実を知ることになるとは…

正直想像もしなかった…

再見…中国
ふとした時に、昔を思い出すこと。
それはどんな人でも経験することだと思う。

高校を卒業し、専門学校を卒業し…

気がつけば今の仕事をしている私。

そんな日常に充実も不満も感じなくなって、生きていくことだけでいっぱいいっぱいだ。

会社の車でいつもと同じ道を走り、いつも聞いているラジオが車内に流れている。

何も変わりはない。

いつもと同じ風景が車のスピードと同じ速さで流れていく。

そして、いつもと同じように仕事現場に到着して、車を降りる。

風に暖かさと湿気を感じる。

「雨が近いのかな」

誰に言うわけでもない。誰が聞いているわけでもない。

ただ言ってみたかっただけ。

「…そうかもね」



「雨って好きだな…水の弾ける音と、全てを流していってくれる気がしてね」

後ろから聞こえる声に、私は懐かしさと嬉しさを込めて話かけた。

「そうか…、俺も雨が好きだな。あの日を思い出すことができるから」

そう言って後ろを振り向いた先には、誰もいなかった。

ただ…

雨の匂いがする風だけが吹いていた。

「…っは…何言ってるんだか…暖かくなって少しおかしくなったかな?」

独り言を言いつつ左ポケットに入っているいつものタバコを取り出す。

「…今まで忘れてたくせにな。都合よく思い出すなんて…な」

私は何を思い出しているのだろう?

でも。

胸の中にこみ上げてくる感情は、暖かくて、懐かしくて…

タバコに火をつけると、白い煙が蒼い…どこまでも蒼く見える空に上がっては消えていった。

「…タバコがうまいなぁ…」

肺の中に入ってくる煙が今では何よりもおいしく感じる。

数年前ならタバコを吸う奴は嫌いだったのに、今ではその仲間になってしまった。

「変わっちまったんだなぁ…俺は…」

時計の針があの日から一体何回一周したのだろう?

変わってしまった自分が、今では「いつもの自分」に思うようになってから一体いくつ雨の匂いを感じてきたのだろう?

そんな事を考える自分自身が、一番変わってしまったと気づいたのは、タバコの先端がフィルターの近くにまで来た時だった。

2007年5月

ふとしたことで思い出した。

人生の中で言えばほんの一瞬の滞在だったのだろう。

だが、私の記憶の中からきっと一生消えることはない思い出の旅。

それは8年前の1999年夏のこと。

ふとしたことがきっかけで旅することになった国での思い出。

私は…、ゆっくりとあの日のことを思い出していった。





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