ある日、ふと思い出した昔の暖かい思い出。 そんな事を小説にしてみたい! そんな男の場所です。


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装甲騎兵ボトムズ 外伝 2
第2話 「出会い」

アストラギウス歴 7195年6月11日 惑星ノウハン 惑星時間 Am02:00

「ケッ!クソッタレな作戦にクソッタレな指揮官じゃあよ!死んでこいって言ってるようなもんだぜ!」

文句を言いながらも、愛機であるAT(アーマード・トルーパー)の椀部関節を調整している長身の男(シヤコ・バ・ゴッショ)が見える。

「確かになぁ…あちらさんの要塞を崩すには戦力も足らんし、なにより力押しのみしか見えんこの作戦には…なぁ…」

シヤコの隣では、長身で細身のムラカ・ワケイが操縦席に座り、天井を見ながらつぶやいていた。

我々は10日前。惑星ノウハンに降下し、すぐさま敵の前線本拠地であるランテン要塞攻略の任務についていた。

現在戦闘はこちらが一方的に攻めている状態ではあるのだが…、攻めているように見えて、敵の砲撃の雨に足止めをくらっていて、進めない状況となっている。

作戦…なんていうものは皆無で、丘陵地帯にある敵要塞の攻略ポイントの一つであるわずかな平坦なヤマテ平原には友軍の残骸が無数に転がっている。

このヤマテ平原は敵側からすれば視界を遮るものはなく、絶好の射撃訓練場程度に思われているのかもしれない。友軍は射程距離に入っても、攻撃できるのは要塞の防壁だけで、防壁の隙間から攻撃してくる敵を攻撃することができない。

では航空兵力で攻撃してはどうだろう?

これも無残な結果に終わった。要塞からの対空攻撃と防壁の厚さは尋常ではなく、現在のメルキア軍の航空兵力武器では破壊は不可能だった。その上、破壊できないとわかっていながら何度も航空兵力を投入したことにより、航空兵力は惑星ノウハンに降下させた部隊の約3/4を失ってしまった。

そうとわかっていても尚、ヤマテ平原より強攻作戦を続行させようと考えている司令部。

何故こんなにもこの惑星に拘るのか?

作戦に参加した全兵士、その答えを知らなかった。

しかし軍上層部はなんとしてもこのノウハンを占領し、何かを得ようと考えているのは確かだ。

だが…

「突入!」「一時撤退!」の繰り返しが続いていく中、戦友と呼べる者の大半は、あのヤマテ平原で鳥や虫達の格好の食料になるか、炭となってしまっている。

俺は何度も突入開始前に思ってしまう…

「次は俺があいつ等と同じようになるのか…」と。

自分の死に場所すら選べないこの理不尽な作戦に、誰もが落胆していた。

しかし無常にも第7次攻撃の命令は下された。

メルキア軍の本拠地であるサイサ。あと数刻で我々は出撃しなければならない…生きてまたここに戻ってこれるのか?それは誰もわからない。

「おい…おい!。ダサワ…ダサワ曹長!」

ふと気付くと私は名前を呼ばれていることに気付いた。

「え?あっ…」

「…大丈夫か?顔色が悪いようだが…」

私の顔色を覗き込むように見ている男…一体誰だろうか?

「同じ降下部隊になったガワー・ヤナだ、階級は同じ曹長だ。まっ堅苦しい挨拶は抜きでいこうや」

「よ…よろしく。キユウ・ダサワです」

「よろしくな!…しかし…まだ若いな。いくつだ?」

「はい、19です」

「19!?俺の2つ下か!…もっと下に見えるな」

「え?そうですか?」

「まぁお互い年も近いのは何かの縁だ。よろしく頼むぜ」

「こちらこそ…よろしくお願いしますヤナ曹長」

「おいおい、1分前に「堅苦しいのは無し」って言ったばっかだぜ?普通にヤナって呼んでくれ」

「あ…そうです…そうだな。よろしくヤナ」

「おう!」

まだ見たこともないが、地獄というものよりひどいと思うあの場所へ赴く前に、少しばかり気持ちが楽になった私は、そのまま彼と談笑を続けた。

「それはそうと、他の連中は前から一緒の部隊なのか?俺は昨日降りてきたばっかでよ」

「いや、俺も今日始めて会う人達が多いな、シヤコ上級曹長とはこれが三度目の出撃だけどね」

「三度!?ってことは…」

「あの第5次攻略戦から一緒さ、俺の場合第3次戦から参加だけど、彼は第1次からの生き残りだよ」

「…そうか…」

「第5次で、俺の戦友と呼べる連中は皆…」

「言うな」

私の言葉を遮るように、ヤナは言った。彼も別の戦地で同じような体験をしたのかもしれない。

「今、お前は生きてる、そして俺と話してる。先に逝った連中の話はタブーだ…な?」

「そうだね…」

「あそこにいるのは知り合いか?」

この話を続けて、暗いムードになるのを呼んだのか、ヤナは他の話題に切り替えた。

「え?…いや、今日初めて見る顔だな…そして機体も」

「なんなんだありゃ?」

輸送機の格納庫の一番中央に座しているということは指揮官クラスなのか?いやそれよりも気になったのは、その機体の背部ザックだ。

ザックとはいえないほどの巨大な2本の突起物、そして中心にあるコンテナ状の物体、あれはなんだ?

「なんだろう…あれ…」

「砲身?じゃないな、砲口がない、なんの武器だ?」

「さぁ…」

「ちょっと行ってみようぜ?」

興味津々のヤナの顔は、まるで子供のような顔だった。

近場で見ると、その大きさに驚かされる、2本立っている突起が、ちょうど頭部の間を通り抜けて、前に倒れるようになっているらしく、これが前に倒れた時何かをするのだろうか?

さらに背部のコンテナの上に、円形の物体が見える。

「レーダーと無線機かな?」

「こんな馬鹿でかい無線機があるのか?」

「う~~ん…」

しばらくそれを見ていると

「お前達も気になってたのか」

奥にいたシヤコとワケイがやってきた。

「おっと、あんたにはまだ挨拶してなかったな。離陸しちまう前に声はかけようとおもってたんだ」

「は!お前達の声なんざ、この狭ぇ格納庫内に響いて聞こえてらぁ。年は俺の1つ下だなヤナ曹長」

「お~~自己紹介の手間が省けてよかった。シヤコ上級曹長殿、これからよろしく!」

「おう!ああ、そうそうこいつとは同い年だな、よかったじゃね~か、なぁ?」

そういうと、謎のATの背部サックを見ていたワケイがこちらに振り向いた。

「ムラカ・ワケイ曹長だ、階級も年も同じ奴がいるのは奇遇だな。よろしく頼む」

「こちらこそ」

ワケイが差し出した右手を強く握り返すヤナ。その時私は、なぜかこの人達と長い付き合いになりそうだな…と思っていた。それがなんの直感なのかはわからない。ただ、そう思っていることが現実逃避なのか?

まぁいい。そう思えるのはいい兆しなのかもしれない。先ほどまで暗くなっていた私の心は、少しづつ明るくなっていった。

「お二人もこの機体を見るのは初めてですか?」

「ああ」

「こんなもん見たこともね~し、敵から見たら目立って、いい的なんじゃね~のか?」

3人が背部を見ていると、ワケイが他にも何か見つけたようで、私達を手招きして呼んでいる。

「これ見てみろ」

「っつ!」

「なんつ~~でけぇ盾だ!」

腕部に装着されている巨大な盾、背部にばかり注意がいってしまい気にもとめてなかったが、近くでみると4枚の複合装甲とスライドが見えた、このスライドで、4枚の盾それぞれがスライドするとなると、上、横、斜め上に展開されることになり、さらに反対の腕にも装着されている。この盾はこの機体だけをカバーするならこんなにもいらないはず…一体何に使われるのだろうか?

そしてさらに驚いたのは、この機体には武器はショートレンジマシンガンしか持っていないことだった。

こんなにも大きな背部と盾を持っているのなら敵から狙われるのは必至。盾の隙間から狙撃するにはショートレンジマシンガンでは集弾率、射程がどれも足らない。いや、逆を言えば、メルキア軍の標準ATであるスコープ・ドッグが通常携帯するマシンガンではどちらにせよこの盾を有効に使っての狙撃は不可能。

「…これに乗る奴は馬鹿か?」

シヤコの言葉には他の意味もあったと思う。

これだけの装備(背部サック、盾、機体も含めて)の重量では、スコープ・ドッグの最も優れた武器であるローラーダッシュ(RD)の有効性がなくなってしまうのではないか?
仮に走れたとしても重量のせいで通常速度もだせず、足手まといになるのではないか?
一体この機体は何なのだろう…

「まぁここで議論してても仕方ないっしょ、とりあえず指揮官様を待ちましょうや」

ヤナの一言で、その疑問と一旦お別れし、私達は再度、自機のチェックに取り掛かった。
輸送機が発進するまで後15分。

未だに指揮官は現れない…



アストラギウス歴 7230年 メルキア本国のとある住宅地

「7195年に起こった出来事?ええ、覚えていますよ・・・時刻までしっかりとね」

当時を思い返す初老の男は、少し遠くを見つめて話を始めた。

「あれは7195年の6月11日、そう確かノウハンの衛星5つのうち3つが良く見える夜で…第7次攻略作戦前の慌しい中の出来事でした…」

AM02:15 サイサ通信室内

「わかっています…ええ…無茶は致しません…ええ…え?…ああ、作戦指揮官ですか?…あまり言いたくはないですがねぇ…ええ…」

本来ATパイロットが立ち寄るような場所でもない通信室に巨漢の男がヘッドホンとマイクを通信兵から取り上げて話している。

巨漢というよりも脂肪の塊…といいたくなるようなその男は、頭部に滲む汗を手で払いながら会話を続けた。

「例の男ですよ…もうわかるでしょ?…ええ、奴ですよ。おかげで7次作戦にまでなってしまいましたよ。…ええ、まぁ実験にはうってつけ…とでもいいましょうか。…ええ…配置?もちろん最前線ですよ」

その言葉の後に大きな怒鳴り声が聞こえた。と後に隣にいた通信兵は語っている。会話の内容はまったくわからなかった…と…。

「!そう怒鳴らないでくださいよ!仕方ないでしょ~…ええ、わかっています。それでは閣下。次の予定の件、お忘れにならないで下さいね…はは。またご冗談を…ええ、よろしくお願い致します。では通信終わります」

「ふぅ…」

ため息をついたその男は、腕時計を見て少し焦り始めた。パイロットスーツを着ているのだから7次作戦の要員のはず、とっくに他のパイロットは輸送機に搭乗しているのに…

通信兵の一人はそのことが不可解でならなかった。巨漢の男は小さく礼を言ってヘッドホンとマイクを返した後、小走りに部屋を出ていった。

一体どこと通信していたのだろう?

その通信兵は違反とわかっていながらも、通信記録を見てみることにした。 

しかし…今さっき通信していたはずの記録が残っていない。
そんなことはありえない!声もかすかに聞こえていたし、怒鳴り声だってしていた。通信していたことは間違いない!なのに記録がでない!

すると先ほどの男が戻ってきて一言告げた。

「そうそう!記録はないよ。それ以上調べるのは辞めたほうがいい。首を突っ込まないほうが…君の将来のためだと思うから。では行ってまいります!」

気になる言葉を残し、廊下をドタドタと走っていく音が遠くなっていき、消えた。

どうしても気になる…こうなったら機密パスを使って先ほどの会話の記録を聞きだしてやる!
もちろんこれは重大な違法だ。たとえパイロットの一通信といえどそれを盗み聞くのは軍法会議物なのはわかっている。だが、今は私と他二人しかいない。
他の二人には後で根回しすれば、このことが発覚することもない。

機密パス MKR14B277MXS-58J…

30桁にも及ぶ機密パスを入力すると通信室の全データベースが表示され、さきほどの時刻の通信記録を探してみる…



あった!しかし保存先は一般の保存先ではなく、最高ランクのS通信記録になっている。
どうやらこれが記録が見れない原因だったのだろう。

さっそく会話を聞いて見る。

こちらで巨漢の男の声を省き、相手側の声だけにのみにして会話を聞くと…

「今回が君の要請のあった機体の初参戦となるが、今から行く場所が危険なのは…わかっているのかね?…ふむ…無茶は…うむ、わかっているならいい。そういえば指揮官は誰なんだ?……ん?どこの家のものだ?……ああ…ジオマ家のボンボンか…そうなるとまた被害が大きいかな?…ふむ…前線の兵には辛いものだな…そういえば配置はどこかね?…何ぃ!!最前線だと!!??先ほどもいったが無茶だけは…ふむ…ん?…あ~クルージングの件かね?…はは、わかっている既に増援要請はしてあるよ、明日には到着するだろう…うむ、では必ず帰還するように…ではな…」

…要請のあった機体というのはわからないが…
…ジオマ家のボンボン…
今回の総作戦指揮官である、リュウオ・ジオマ少佐のことか?

少佐をボンボンなんて、まぁ兵員の間の悪口としては呼んでいるが、躊躇なくそう呼んでいたとなると相手は少佐以上の階級?

そして、表示されていた相手の所在地を見て、私は驚愕した。

メルキア軍戦術研究機関 Melkia Armed forces Tactics Research Organization 通称MATRO

メルキア軍の全ての武器、戦術の研究を行う機関であり、ここの管轄はカーニ・モト大将直轄の部隊、研究員がいるエリート集団で結成された組織である。

通信記録の最後に表示されているのはMATROの部屋…それは…

MATRO総管轄室 室長室…つまり通信相手は…カーニ・モト大将??

それを知った途端、画面が強制切断され、次に表示されたのは…私への出向命令だった…

たった数分の会話の事実を聞きたいがために行った行為の結果…私は通信兵としての職務を終えることとなってしまった。

出向先は…本国。

地獄のような前線からの開放と同時に、私は半生の自由を奪われることとなった。
あの時、あの男の忠告を聞いてさえいれば…こんなことには…

しかし…本当はこれでよかったのかもしれない。
あのまま通信兵として職務を続けていれば…私もきっと戦友と同じ場所にたどり着く運命だっただろう。

本国で家族とも会えた。仕事も一応はある…ただ監視付の生活へのストレスだけ…
戦争が終わってから監視はなくなりましたが、それでも…あの地獄に比べたら…ここは天国でしかない…と思えてなりません。

7230年 元メルキア軍第2降下部隊所属、サイサ前線基地第1通信室勤務 デム・バーロン伍長リポートより抜粋

時は戻り…

7195年 AM02:27

各機のチェックも終わり、兵員待機室で私達4人は指揮官の登場を待っていた。

あの謎の機体のパイロットでもあり、俺達の指揮官…どんな人だろう?

「ケッ!一体いつになったら指揮官殿は現れるのかねぇ!なんだったら俺が指揮してもいいんだぜぇ~~」

硬い椅子が並ぶ待機室の椅子に寝そべりながら、シヤコが誰に言うわけでもなく言葉を空に投げる。

「確かに遅いな…一体どうなっているのだろうか?」

腕組みをしているムラカもさすがに待ちぼうけしているようだった。




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装甲騎兵ボトムズ 外伝
Lullaby of the red shoulder

「真実を知った日」

アストラギウス暦7230年10月17日

その日私は、一人で酒を飲みたくなり、立ち寄ったこともないバーの前で立ち止まった。

いつもなら酒を飲みたい、それも一人でなんて思うことなんて今までに一度もなかった。

だが、その日は別だった。

降りしきる重くボタボタと落ちる雨がそんな気分にさせるのだろうか…
肩まで濡れている今の状況を考えると、雨宿り程度でもいい、何か気を紛らわせる程度でもいい…
安酒でも気分を変えることはできるだろう。

そう決めて、店のドアを開ける。

店の名前を見るまでもなく、中に入る。

中は薄暗く、人気もない…

何より場所が場所だ。人もこないのだろう。

よく見るとカウンターの奥にその店の主人が見え。

「いらっしゃいませ…」

小さい声で主人は言った。大柄な格好に似合わない小声なのが印象的だった。

薄暗いわりにはこぎれいにまとめられた店内の端の椅子に腰をかける。

「ご注文は?」

グラスを拭きながら近づいてきた主人の顔がよく見える。

「あっ…じゃあ何か酒を…マスターのオススメの安い酒を」

「…わかりました」

すると主人が取り出したのは明らかに高そうな酒だった。

「え?ちょ、ちょっと!なんか高そうな酒なんじゃ…できれば安い酒がいいなぁ」

他にも見たことのある安酒はいくつも見えたが、店主は何も言わずにグラスに氷を入れ、酒を注ぎ始め、小声で語り始めた。

「今日は私にとって記念日なんですよ…お勘定はかまいませんので…」

…何か薄気味悪い感じもした、もしかしたらボッタクリなんじゃないのか?

そう疑っていると、目の前に先ほどのグラスが置かれた。

「どうぞ…」

正直飲むのも怖くなってきたが、もしこれがボッタクリ系の店だったら速攻で逃げればいい。

グラスを持ち、一気に飲み込む…

すると、今まで飲んだことのないようなうまさの味だった。

口の中に広がるかすかな甘み、これが熟成された酒のうまみなのだろうか?

「…ぷっはぁ…なんてうまい酒なんだ!」

そのうまさに思わず言葉が出てしまうと、表情がよく見えなかった主人の顔が和らいでいく。

「そうですか…お口に合ってよかった。もしよろしければもう一杯どうですか?」

「是非!」

今度はグラスが二つになり、主人と私の分が注がれた。

一杯目は一気に飲んでしまったので、今度は味わいながらゆっくりと飲むことにしよう。



グラスの酒が1/3くらいにまでなったところで、今まで黙って飲んでいた主人が口を開いた。

「この味を分かる方に飲んでもらってよかった…」

その表情は穏やかで、何かを懐かしむようなようにも見えた。

そして私は先ほどの主人の一言を思い出した。

「先ほど記念日と言っていましたが、何の記念なんですか?」

「いや…なに、昔の話ですよ。昔のね…」

「もしよければ聞かせてくれないかな?こんなうまい酒を飲ませてくれる礼として、私もその記念をお祝いしたい」

「長いお話になります…まぁ酒の肴程度に聞いてください」

「はい」

「…あれは35年も前の話です…」

この時は、主人の恋人か子供の誕生日なのかと思っていた。

だが、後に私はこのアストラギウス歴の中でもっとも過酷な時代の真実を知ることになるとは…

正直想像もしなかった…

「月空に舞う」
B「ふぅ…」

安堵の息をもらしたブルーの上空、どこまでも続く暗く、吸い込まれてしまいそうな闇の宇宙が広がる。

宇宙にいる時、上か下かもわからずに、もう戻れない感覚。まるで明けることのない夜が永遠に続くような恐怖を感じることがあった。

でも今は大地に足をつき、月面に立っている。

戦争は終わっていない…

アクシズ軍は、まだその強大な戦力を保ち、いつその刃を向けてくるかわからない。

エゥーゴ、カラバでも様々な対応を考慮している。
新たなフラッグシップマシンの開発、量産機の性能向上、新型戦艦の開発、艦隊の再編成…

考えてしまうとどんどん頭が重くなってえいく。



今はそんなことは考えたくない。
この静かな時間が永久に続いてくれること。そのことだけしか考えたくなかった。




AEの管制室のざわめきは、ネモが撃墜されてから数分で収まった。
エンジニアや、メカニック達はそれぞれの持ち場に戻り、普段の管制室の音だけが、部屋に響いている。

管制室のドアが開く。

シュミレーションは終了し、もう見学するものなどいないはずだ。

Sa「誰ですか?」

サトウはドアの方を向くと、見慣れた男が立っていた。

K「?終わったのか?シュミレーションは」

Sa「先ほど」

K「そっか~…久しぶりに見たかったんだがな」

その男は、頭をかきながら、管制室のシュミレーション記録を見始めた。

K「どうだった?Zの方は?」

Sa「ええ、基礎運動のプログラムに彼のデータを加えただけですが、オリジナルよりも反応速度が上がってますよ」

K「ほ~~」

そう聞くと、その男は月の周回2週目までを早送りで見る。

K「さてどんなもんかな?」

戦闘シュミレーションのみしか興味がなかったらしい。

戦闘開始。



サトウは引き続きデータの収集を開始し、その男はモニターから目をそらさずに見入っていた。

K「…ん~」

時折、何か不満でもあるのか、何かを発見したのかボソボソと呟いてはモニターを見続ける。

アルファ2をボロボロにしたところまで見ると一旦再生を止めた。

K「なぁ?設定が少し甘いんじゃないのか?」

男が振り返り、サトウを見る。

Sa「彼が設定したんですよ。当初の設定よりももっと細かくね」

K「旋回速度や、急加速をもっと早くできるな。こいつの腕ならな」

Sa「そうですか?今でも十分に…」

サトウの言葉を遮るようにその男は話を続けた。

K「データ上では、オリジナルよりも上かもしれん、だが、オリジナルと今のグレイを実際に戦わせれば100%負けるぞ」

Sa「…」

K「早く戻らせよう、俺も奴と共にもう一度設定を見直す」

Sa「了解しました。あ!カズン中尉」

カズンと呼ばれた男は、ネモとグレイの戦闘シーンを見ながら聞き返す。

K「ん?」

Sa「今日はオフなのでは?」

カズンはモニターを見ながら、小さな声で答えた。

K「…帰る家も、待っている人も俺には無いんでな」

その表情を見ることはできなかったが、サトウは自分が問うた言葉を後悔した。

Sa「あっ…すいません」

K「いいんだ…俺は戦場の中でしか生きられないような男だからな」

Sa「そんな…」

K「気にするなよ。あっあと今の事、あいつには言うなよ?」

言うと何かあるのか?サトウは疑問に思ったが、それ以上の詮索はしないでおこう。そうして、またサトウは作業に戻った。

数分後

管制官「ん?何だ?」

Sa「?どうした?」

管制官「フォンブラウンの南東、SW5580付近、熱源を感知。機数は…2…いや3!」

Sa「シグナルは?エゥーゴや連邦の機体がそんな場所にいるはずが…」

管制官「シグナル…ブルー。エゥーゴの機体です。SW4780、ブルー機に近づいていってます」

Sa「何故エゥーゴの機体が?付近に艦隊はいるのか?」

管制官「エゥーゴ第2艦隊所属のアカギがいます」

Sa「どういうことだ?」

今まで黙って聞いていたカズンがモニターを見るのを止めて、立ち上がる。

K「許可もなくフォンブラウンの領空に侵入する気か…フォンブラウンに確認を取れ」

管制官「りょっ了解!」

そういうとカズンは床を軽く蹴って、ハンガー方面に向かっていく。

Sa「カっカズン中尉!どこへ?」

K「決まってるだろ。出迎えだよ」

Sa「まだ敵とは決まってませんよ!?」

K「敵だったらどうする?非武装のグレイに何ができる?」

Sa「あっ…」

冷静に状況を考えればそうだ。仮に友軍機であっても目的が不明すぎる。

ハンガーについたカズンは、自分の愛機であるリックディアスに搭乗する。

K「…目的はわからんが、黙ってられるわけでもない…」

自分の愛機の操縦桿を強く握り、彼はヘルメットを被った。

黒と赤のリックディアスのメインジェネレーターが稼動し、台座がカタパルトまで移動を開始する。

K「メインジェネレーター、チェック。スラスターアクティブ、問題なし。」

カタパルトまでの移動の間、全てのチェック項目を淡々とこなしていく。それは一年戦争からパイロットをやっていたカズンにとっては、いつもやってきたことだった。

一年戦争…

彼は連邦軍 欧米方面第2方面軍、第1MS大隊の2番機として配属され、欧米での激戦区を生き抜き、オデッサ、ジャブロー、キャルホルニアと一年戦争の地上での大規模な戦闘に参加。戦場が宇宙になると、第3宇宙艦隊配属 第2MS大隊の2番機としてソロモン、ア・バオア・クーの戦闘に参加。

しかしア・バオア・クーにて、彼の所属する部隊は全滅。
彼の母艦であったサラミスも撃沈され…

敵、味方共にどこへいけばいいのかわからない状況が続いた。

戦闘終了後、混乱が続く中、彼の部隊は全滅という報告のみで、未帰還だった彼を、連邦側は捜索もしなかった。

カズン・イェーヘン少尉(当時)はMIAとされ、一年後にはMIAから戦死、連邦内では2階級特進の大尉となっていた。

遺族報告をしようとした連邦だったが、彼の家族は一年戦争時に既に全員他界していた。唯一いた弟ケビン・イェーヘンも連邦軍空軍に所属していたが、オデッサ攻略作戦中、撃墜され戦死していた。

その後、遺族への賠償もない都合のいいMIAとされたカズンの記録は抹消され、事実上死んだ男となっていた。

実際は、愛機のジムコマンド(U)が中破し、宇宙を漂っていた所、グラナダ方面へと逃亡中だったジオンの艦隊に救助されていた。

グラナダに着いた彼はまもなく解放され、その後、連邦で自分のIDや記録が抹消されたことを知り、軍には戻らなかった。

その後、経歴を買われコロニー外、外宇宙にてコロニーの障害となる隕石やゴミを排除する仕事に就く、これがブルーとの出会いとなる。そして30バンチコロニーにて生活、愛する人もでき…子供も授かった。

しかし…

彼がフォンブラウンに呼ばれ、AEのシュミレーションのテストパイロットに選ばれたことが決定した日。30バンチはティターンズの毒ガス攻撃で壊滅した。

彼は生きがいを無くした。

家、家族を失った彼。そんな時にブルーからエゥーゴへの参戦を求められた。

全てを失った彼、それを行った者への復讐もあったのだろう。断る理由は何もなかった。

ジャブロー降下作戦以降、ブルーと共に戦った。

彼はアサルトストライカータイプで、ライフルとサーベルの両手武装がスタイル。そして彼の攻撃対象は、彼の姿を見ないまま撃墜されることと、彼の愛機のカラーリングから「ディアブロ・ストライカー」と呼ばれた。

発進準備が完了した頃、カズンのモニターに通信が入った。

A「どっどうしたんすか?今日は非番でしょ?何してんすか?」

小柄の男がいそいそとパイロットスーツに着替えながら、カズンを呼び止めた。

K「アルか…お前も今日は非番だろ?」

A「そっそうですけど!ブルーのシュミレーション見にきたら、もう終わってるわ!カズンさんは急いでハンガーいっちゃうわ!事情がわかんないっすよ」

K「俺にもわからんが。どこかの狂った奴が、ブルーに近づいてるらしい」

A「はぁ?シグナルは?」

K「ブルー。エゥーゴの機体らしい…がな。目的がわからん。とりあえずグレイのところに向かう」

話しながらも、自機のチェックを全て終わらせ、カズンの機体はカタパルトについた。

A「ちょ!俺も行きますよ」

K「なら早くしろ。奴等の方が早い」

A「わかりました!」

カタパルトについたリックディアスの右側、発進準備のライトが点滅し…ライトが青に変わる。

K「全てのチェック項目クリア。カズン・イェーヘン。リックディアスAS。出るぞ!」

カタパルトが一気に加速し、リックディアスのバインダーユニットから勢いよく火が上がる。

K「…はぁ…」

発進が完了し、一気に高度を上げるリックディアス。先ほど発進したカタパルトもみるみる小さくなっていく。
緊迫した空間が、コックピット内を包む。しかし、カズンは安心感を感じていた。

K「やはりこの空間…これが俺のいるべき場所なのか?」

何か、心の中が満ちていく思いを感じながら、カズンは操縦桿をさらに前に押す。

リックディアスもそれに応え、さらに加速していく。

Sa「フォンブラウンから確認が取れました。どうやらアカギのMS隊が演習を行うそうです。」

K「演習?」

Sa「ハイ。許可は数刻前に取れていたようですが…」

K「何故AE側に許可を取らないんだ?」

Sa「そうで…あ!今、相手側より演習許可がきました!内容をそちらに転送します」

K「ああ」

送信主

エゥーゴ第2艦隊所属 アイリッシュ級5番艦「アカギ」 OPシリウス

「当方のMS部隊、完熟訓練のため、SW5500付近にて演習を行う。フォンブラウンからの許可申請受諾コード01197854。」

K「今更許可を取るとは…」

カズンは操縦桿を強く握り締める。その表情には先ほどまでの安堵感は見られなかった。

Sa「ダメです。何度も試みてるのですが、オールアウトしてるようです」

K「ちぃ!ターゲットがグレイに到達するまでの時間は?」

Sa「ミノフスキー粒子が濃くなっているようで、確認できませんが、先ほどまでの進行速度から考えるとおよそ5分」

K「こちらからは10分…ブルーなら5分はもつだろうが…引き続きブルーへの通信を行ってくれ!」

Sa「了解しました!」

カズンのリックディアスは高度を下げ、さらに加速。

K「…目的不明か。まぁいい。どちらにせよお引取り願おうか」

彼の機体は迷うことなく、戦友の下へ向かっていった。

同時刻

A「ったく!こっちも久しぶりの休暇だってのに!」

アル・フェルドは、小声でブツブツと文句を言いながらも、彼の愛機であるネモの全てのチェックを行っていた。

A「あ~~もう!15時までには帰りたいなぁ。今日は約束があるのに!」

アルは、マイクがオンになっている事に気付いていなかった。その会話は全ての者に聞こえていた。

K「約束があるのならかまわんぞ?3機程度なら、俺とブルーで十分だからな」

彼は、初めてマイクが入っていたことに気付くと、あたふたしながらもチェック項目を全て終わらせた。

A「え!?あ~~~、まぁそんなこと言わずに。チームなんですから!」

K「…まぁいい。来るなら早くしろ。あちらさんの方がこっちよりも早いんだからな」

A「わかってますって!」

カタパルトが定位置に着き、アルのネモのバックパックの火があがっていく。

A「どこのバカだか知らないけど、ブルーさんに手出すなんてな」

Sa「目的は完熟訓練だけとは思えませんね。明らかにグレイの訓練を読んでの行動としか…」

A「まぁ何にせよ。こっちも3機。ただじゃあ帰れないってことさ」

発射準備完了のシグナルが点滅から青へと変わる。

A「よし!アル・フェルド。ネモASn!出るぞ!」

右手に大きなアサルトスナイパーライフルを持った、アルの機体が勢いよくカタパルトを進み、月の上空へと飛び立った。

A「離陸成功、これよりブルー機支援のため向かいます」


アル・フェルド少尉

所属 エゥーゴ

一年戦争時は、まだ学生で、一年戦争後に地球連邦軍に所属。
ティターンズ入隊試験をトップでクリア。当初はティターンズに所属。

しかし各コロニーに対する弾圧や、非道の限りを尽くすティターンズのやり方に疑問を抱き。ティターンズより逃亡。

その後、地球でブルー達と出会い、エゥーゴの主張に賛同。エゥーゴへの仮所属となる。当時の監視はブルーとカズンの二人で、出撃する際に彼等二人と行動するうちに、いつの間にか彼等の小隊編成に必ず組み込まれることとなった。

戦闘で熱くなりすぎるブルーと、戦況を見極め、冷静な対応をするカズン。そして明るい性格のアルの三人。アル自身も思ってもいなかったが、この三人が一番しっくりくる編成となっていた。

アルの戦闘スタイルはアサルト・スナイパー。

当初はクレイ・バズーカとビームライフルを使い分けていたが、試作武器のテストを行った際に渡されたスナイパーライフルが好みにあったらしく。それ以降は中、遠を主体とした戦闘を行うこととなった。

彼の武器であるEBW-001 「ロング・ホーン」は、実弾とビームの双方の砲門を持つ複合ライフルで、実弾での速射、狙撃。ビームでの貫通狙撃など多種攻撃が可能な兵器ではあるのだが、その分重量があるのと、取り回しが難しい上、地上では扱いにくいとされた。

しかしバランサーの調整と、彼の操縦技術により問題を克服。今ではこの武器以外は持たないというまでになった。

彼の戦跡は、キリマンジャロからで、その後は宇宙の大規模作戦にブルー、カズンらと共に参加。彼等二人の支援攻撃担当となっている。

また仮所属から正式所属に変更になった後、彼単独での狙撃ミッションも多く。彼の最も大きな戦果は、メールシュトローム作戦直前の単独狙撃ミッションで艦隊の展開の時間稼ぎというものだった。

彼の狙撃で、サラミス改2隻、グレイ・ファントム級1隻を単独で撃沈。さらに展開する艦隊のメインブースターの一部にダメージを与えた。

またメールシュトローム作戦中。コロニーレーザー前に配置されていたアレキサンドリア級の戦艦を沈黙させるなど、狙撃の腕はエゥーゴでも随一のものであった。

しかし、近距離戦闘が苦手な部分と、パニックを起こすという面があり。その際には前衛の二人がカバーするという事もあった。

二人はその事に関しては何も言わなかった。

彼等の無言の中にあった「信頼」をアル自身強く感じていた。


A「さぁて、今日はどんな奴が来るのかな?」

K「お気楽な奴だ。もしかするとお前以上の腕かもしれんぞ?」

A「はは!その時はその時ですよ!」

K「ふっ…」

カズンとしてもアルの支援無しでは十二分な戦闘が出来ないことを理解していた。それにどんな強敵でも、この三人であれば勝てる…何故かそんな風に思えてしまう。カズン自身、それを否定したくても本心ではそう思ってしまうことが不思議でならなかった。

K「早く来い!どこの奴等だろうが、ブルーはやらせん」

A「了解!」

カズン機に遅れること3分。アルの機体もブルーの下へと向かっていった。




その頃ブルーは、静かな時間を満喫していた。

B「…」

満喫するというより、完全に寝てしまっていた。

通信はオールオフにし、戦闘モードも解除。モニターには、周囲の白い大地と宇宙の闇。まるで白黒モニターを見ているような錯覚に陥る。

B「ん…ん~~~…あ…またか…」

何時からか、彼は緊張の糸がほぐれると、寝入ってしまうクセがついてしまっていた。会社の会長席にいても、隙あらば寝てしまう。

B「ん~~~~~~っと」

大きな背伸びをして、周囲を見回す。先ほどから変わらない景色のみが見えている。

B「さて、帰るかな」

スラスターに火がつき、グレイ・ブルーのカメラアイが光りだす。
ナビゲーションシステムがAEの工場方面。つまりはフォンブラウン側への方向を指示し、モニターに矢印が表示される。

B「今頃カズンがシュミレーションを見てる頃かな?アイツのことだからなぁ…「50点だな…」とか言いそうだな」

そう言い終える表情は少し笑っていた。

メインジェネレーターの数値が上がり、稼動準備が整う。

B「ふぅ…さてさ…あん?」

モニターの左側で何か光った。
この空域には、現在フォンブラウン管轄の外宙作業は何もないはず。

B「なんだ?」

グレイがその方向を向き、サーチを始める。

B「…!?」

彼は今までの戦闘での直感で、グレイを急速後退をさせる。
何かが来る。そう感じた。

その瞬間!

グレイがいた場所に閃光が走る。

B「…っち。くだらねぇどこのアホだ?」

グレイのモードを戦闘モードに切り替える。武装は大型のビームソードのみ。しかも出力調整ができておらず、不安定な状態となっている。

B「俺も年くったのかな…あの距離まで近づかれて気付かなかったか…情けねぇ」

光。つまり発砲された事に気付いてから着弾の時間を計算し、おおよそ8~10kmほどに敵がいるということを察知したブルーは、射線の死角になる場所をみつけ、戦況分析を行っていた。

B「狙撃ポイントは…?」

ブルーは射線から割り出した位置の地形を確認する。

B「っちぃ…トレンチだらけじゃねえかよ」

狙撃ポイントとなるような窪みが多数ある月面において、狙撃ポイントを割り出すのは非常に困難だった。

B「まぁいい…どうせ移動したはずだ。こっちも動くか」

この時、ブルーは自分が通信をオールカットしてることに気付いた。
いくら歴戦のパイロットとはいえ、相手の数がわからない状況の中で戦闘をしかけるのは得策ではない。

B「こちらブルー…AE管制室。聞こえるか?」

しかし雑音が聞こえるだけで、通信は繋がらない。

B「っち!ジャミングされてる?少しでもAEに近づかないと…」

妨害電波なのか、敵が散布したミノフスキー粒子の影響なのか…しかしそれは問題ではない。今は少しでもAE工場の近くまで移動することが優先された。

ブルーは再度地形情報を確認し、敵がトレンチ(窪み)の中から狙撃してくるのなら、クレーターなどを利用し、狙撃の死角から移動するしかない。

敵の狙撃ポイントを予想し、移動ルートを選んでいく。

B「…全速で移動するか…狙撃の死角にならない場所は…4箇所。こいつでなら行けるか?」

しかしこれ以上考えても仕方がない。まずは手前にあるクレーターの側面に回り、その後、クレーターを盾にしつつもう一つのクレーターに移動。その繰り返しでいくしかない。

相手も移動するはずだし、空中に浮いて、移動しながらの狙撃では狙撃精度が下がる。一度地に降りてからの狙撃をしてくるに違いない。

ただ…それは相手が1機ならばの話。複数いた場合、自分が移動しているのを足止めされたら、先に相手が狙撃ポイントに着いてしまう。

ある意味でのカケだった。

B「考えてても仕方がねぇ。相手より先に動くしかねぇな」

グレイの機体が動き出し、最初のクレーターの側面に回りこむ。

ここまでは問題ない。発砲もしてこない。

1回目の死角から見えてしまう場所に来ても、相手に動きはない。

見失ったのか?

いや…

既に動きを読まれている?

今まで多数の戦場を生き抜いた男の勘は…

後者を選んでいた。

そして二つ目のクレーターを目視した時、後方警戒の音がコックピット内に響く。
相手の方が上手だ!
最初の警戒音が鳴った直後、左へ大きくコースを変更。グレイが通り過ぎた場所に3発の閃光が通りすぎていく。

B「うまいな…だが!」

そこから全速で第2クレーターの影に入り込む。
狙撃は続いてこない。相手も移動してるのだろう。
速度を落とさず、一気に駆け抜けていくグレイ。

そして一番危険な場所。平坦な地が続く場所を全速でも1分は移動しなければならない箇所に来た。

既に自分の後方の地形は複雑すぎて、狙撃ポイントを絞り込めない。

グレイはさらに加速していく。
狙撃されぬようにジグザグに進んでいくと。

また後方警戒の警報が鳴る。

B「っく!」

右に避けるつもりだったが、自分が移動しようと思う先に閃光が走りぬけ、思うような回避ができない。

B「…へぇ遊んでくれるのかい…ナメた真似してくれるじゃねぇか」

後30秒…

狙撃されながらも、いくつも弾を避けて目標のクレーターに近づいていく。

20秒

15秒

モニターの左右には閃光がいくつも通過していき、序所に狙撃精度も上がってきている。

グレイはここで左腕のシールドの先端を地面にこすりながら移動を開始した。

砂煙が上がり、相手の視覚を奪うためだ。

砂煙を上げた後、狙撃はピタリと止んだ。
次のポイントに移動しているのだろう。

だが、ここでブルーは方向を変え、目の前にあったクレーターの影の中で停止した。

グレイがレーダーで相手を感知できないのであれば、相手もまたミノフスキー粒子の干渉で、レーダーで見えないはずだ。

ならば、ここで待ち伏せて、一気に距離を縮めて反撃をする。

再度位置を確認すると、ブルーは少し驚いた。予定のクレーターと思っていた場所よりも離れていた。

B「…」

何か嫌な感じがする…

B「何だ?」

クレーターの影から、狙撃主の姿を確認しようと少し前に出た時!

B「何!?」

上空からの警戒音が鳴り響く。

B「2機か!?」

後方の上空よりビームの光が向かってくる。しかしそれは先ほどの狙撃よりも精度は悪く、当たりもしないような攻撃だった。

グレイはそのまま奥へとバックで移動し、今攻撃してきた奴の位置を確認した。

だが…

気がつくと狙撃主からの死角になるような遮蔽物はなくなっており、相手からは丸見えの場所に来てしまっていた。

B「誘導されたか…」

先ほど攻撃してきた奴のブースターの光が見えた。こちらの様子を見ている。

誘導に成功した後は、ゆっくりと狙撃主に料理してもらいな。といいたげな感じがした。

B「ちっ…なめやがって」

遮蔽物はない…

避ける自信はあるが、もう1機の動向がきになる。

B「…」

焦るな…焦っただけ相手にそれが伝わってしまう。

あれだけの腕の持ち主だ、きっとそれがわかるはず。



どれだけの時間が過ぎた?

ほんの数秒なんだろうが、それが何時間にも思えた。

そして…

グレイから3時方向、光が見えた!

B「きたな!」

3時方向に方向転換し、グレイの右側のショルダースラスターから火が吹き、左側に大きく避けた。

B「!?」

しかしビームは来ない…その直後!

自分の背後からの警報がなる。

B「ダミーか!」



「腕試し」
Sa「まもなく2週目終了」

B「了解…すごい加速だ!脳が後ろに吹っ飛ばされるかと思ったぜ」

彼の言葉に緊張が感じられた。サトウが見ている脳波でもそれがわかった。
だが、サトウが思っているよりも、彼は落ち着いてるのが、それと同時にわかった。

Sa(ただの金持ちならこうはいかないよな…)

そんな事を考えていたサトウの上空を、またZが通過していった。

管制官「ブルーさん!いい加減にしてください!」

B「ハハハ」

Sa「余裕ですねブルーさん…次は模擬戦を行います」

B「了解」

ウェブライダー形態からMSモードにチェンジすると、グレイ・ブルーのカメラアイが闇の中で光った。

Sa「モニターに敵を表示します。その空間には実際には敵はいませんので、安心して戦ってください」

B「シュミレーションねぇ。どうせなら模擬戦らしく出してくれねぇかな?MSもテストパイロットもいんだろ?」

Sa「これはテストなんです。万が一の事でもあったら私の首が飛ぶんですから…我慢してください」

B「へいへい。やりゃ~いいんでしょやりゃあ」

Sa「お願いしますね」

PP-

ブルーがそのまま飛行を続けていると、正面に反応があった。

B「あれか…」

正面に3機。並んで飛行してくるMSが見える。

RGM-79R ジムⅡが2機
MSA-003 ネモが1機

B「ん~~どうも見慣れた機体を攻撃するっていうのは気分がよくないな」

そう言いつつも、彼は乾いた唇を舐め、手を鳴らした。

B「どいつから片付けるか…な」

グレイ・ブルーが月の白い大地に立つと、背部にある大型ビームソードを右手に構え、左手で一番左にいたジムⅡを指差した。

B「まずはテメェだ」

そう言い終えるとグレイ・ブルーの脚部、スタビライザーのバーニアが勢いよく火を噴いた。

3機は各機散開し、宇宙の闇の中でブースターの火の跡が広がっていった。

ブルーがファーストターゲットとして決めたジムⅡにロックサイトが重なる。

B「ファーストターゲットをアルファ1と指定、これより攻撃に移る」

ロックオンされたジムⅡがさらに左側に移動し、残りの2機がブルーをロックしてきたのが、コックピット内に鳴り響く警報がブルーに事実を教える。

B「ハッ!遅ぇんだよ!」

グレイをロックしている2機が攻撃態勢に入る前。一気に加速したグレイ・ブルーとアルファ1との距離は、既に彼の間合いに入っていた。

PPP---

アルファ1からのロックオンと攻撃の警報が鳴り響く。

シュミレーションで実際には存在しないビームの光が、グレイブルーの右側に流れていく。

B「お?それで攻撃のつもりか?威嚇にもならねぇぞ!」

実際には数秒前、グレイブルーが存在していた空間に放たれたビームは、完全にグレイの今現在いる場所とは離れていた。

そして。

B「ライフルに頼って戦闘するなっつーの!!男なら!!」

さらに加速したグレイブルーはアルファ1=ジムⅡの眼前にまで一気に距離を縮め…

ライフルを先ほど撃った方向に構えたままの状態で動く余裕がなかったのか、それとも、早すぎる動きに対応できなかったのか…

ほぼ無抵抗のまま、グレイの振り下ろされた右手のサーベルによって真っ二つにされた。

B「接近戦で戦えよっと。まずは1機目、次は…」

彼の言葉を遮るように、次々とビームの光が、グレイの右、左に流れていく。もちろん、シュミレーションとはいえ、手加減はない。数秒前にグレイがいた空間だ。

B「ったく!どいつもこいつもライフル、ライフル…」

彼は独り言を言いながらスロットルを前に倒し、セカンドターゲットを指定していた。

B「次はテメェだ。セカンドターゲットを奥にいるジムⅡに、アルファ2と指定」

ジムⅡの名前が「アルファ2」となり、再びブースターの火が上がる。

B「臆病者が!離れてりゃあ安全だと思ったか!?」

灰色のZガンダムが勢いよく加速する。その間にも、ネモとジムⅡはビームライフルで距離を測りながら攻撃を加えている。が。

ビームが流れていくのは、何もない空間ばかりだ。

ネモは一旦高度を高くし、グレイの上方から攻撃を開始、ジムⅡは距離を取るため後退を開始した。

しかし

ジムの後退速度は、突進してくるグレイブルーの速度に比べると止まっているかのような速度で、ブルーの先ほどの言葉の通り、臆病者が臆病風に吹かれたかのように、グレイに背を向けて、全速で逃げようとした。

B「!?おいおいおいおい!!それでも栄光あるエゥーゴのMSかよ!?」

呆れなのか、怒りなのかわからない口調で、ブルーが叫ぶ。逃げるジムⅡを援護するようにネモの上空からの攻撃が激しくなる。

B「っち!逃げる仲間ぁかばう奴は嫌いじゃない。後でじっくり相手してやるから待ってな!」

突進している最中でも、巧みに左右へと回避行動を取るグレイの機体の間近には1本もビームの光は流れていかない。その最中も、ジムⅡとグレイとの距離は秒単位で近づいていく。

そして見えた前方のクレーター、本当は名前があるのだろうが、ブルーはそんなことを知る由もない。

そのクレーターの中にアルファ2は逃げ込み、グレイのロックオンも窪みで消えてしまった。

B「な~るほどね。そういうことする…じゃあ俺もそれなりの方法でやらせてもらおうかねぇ」

グレイが高度を上げようとするが、上空からの攻撃で容易ではなかった。



B「じゃかしい!!」

グレイのビームソードがさらに大きな剣となると、自分の上空をなぎ払った。

その瞬間、いくつか流れていたビームの矢が一瞬でなぎ払われ、上空からの脅威はなくなった。

その後は簡単だ。

高度を取ったグレイはクレーター内に入って攻撃のチャンスを伺っていたアルファ2を再度補足。一気に降下、距離を詰める…

ジムⅡ=アルファ2の頭部を左手で掴み(もちろん実際にはその空間にジムⅡどころかジムⅡの頭部もないが)月面の大地に叩きつけた。

B「臆病者がぁ!這い蹲って許しを請え!」

そのままクレーター内を突き進んでいく、シュミレーションとはいえ、リアルに頭部や胸部が月面の大地に削られて無残な姿になっていくのが見える。

頭部がボロボロになり、持てなくなったら背部のバックパックに持ち直し…胸部もコックピット部は既に削られてなくなっていた。

B「さぁてと!トドメは…君だね!」

上空から攻撃を加え続けていたネモは、既に放っていた。

無残になった両機が、自機が放ったビームが、貫いていった。

ネモからすれば、先ほどまでいたグレイに向かって撃ったはずのビーム。だが、一気に態勢を変えたグレイは、向かってくるビームの盾として、原型がもうないアルファ2を利用した。

アルファ2は月面に叩きつけられて、ボロボロになっている途中で、完全に沈黙している表示が出ていたが、逃げ回るアルファ2の行動が許せなかった。

B「ハッ!調子ずくからそうなるんだよ!。さて、最後はお前だな」

友軍機を撃墜してしまったのであれば、本来は動揺するはずだが、所詮シュミレーション。お構いなしに攻撃してくる。

B「その意気だ、さぁ楽しませてくれ」

すると、ネモ機体色がみるみる変わっていき…

緑色の機体色だったネモが、青いカラーリングとなった。

B「…なるほどね…」

見覚えのある。

いや、それ以上の機体。過去の愛機である。自分が乗っていたネモである。

B「色だけじゃあ…」

彼の言葉が終わる前に、ネモはライフルを捨てた。

B「ないよな。やっぱ」

グレイ・ブルーも、両手にサーベルを持ち、本来の彼のスタイルとなった。

B「シュミレーションで、どこまで俺の動きが見れるのかな?…ふふ」

操縦桿をいったん離し、彼は両手の骨を鳴らし、また乾いた下を舐めた。

沈黙を破っていた管制室のサトウが話しかける。

Sa「ブルーさん。楽しんでますね」

B「ああ?何でわかるのよ?」

Sa「こちらでモニターしてますからね」

ブルーの身体状況の結果、彼は楽しんでいるのがサトウに見えていた。

Sa「さきほどのジムⅡですが…」

B「ああ」

Sa「こちらのテストパイロットが、同じシュミレーションで戦闘させました。」

B「ハッ!もう少しマトモな奴をよこしな」

Sa「予想外でした。落ち込んでいますよ彼等。他のシュミレーションでは、トップのパイロットでしたからね」

B「実戦経験は?」

Sa「ありません」

B「じゃあ無理だな」

Sa「さて、過去の貴方のデータから、ネモを登場させました。手加減は…」

B「してこねぇよな?」

全て見透かされているような返事に、サトウはやはりこの男。ブルーの存在の大きさを再度痛感した。

Sa「では行きますよ?」

B「いつでも」

ネモのカメラアイが光だし、さきほどとはうって変わって全速で距離を縮めてきた。

ネモのブースターの火の跡は一直線にグレイに向かっている。

B「嬉しいねぇ。これが!!」

グレイ・ブルーのブースターも大きく火を噴き、ネモに向かって突っ込んでいく。

B「男の戦いだろ!」

青いネモと灰色のZガンダムのサーベルが、互いにぶつかり合い。

ビームの粒子が闇の宇宙に舞い散った。




G「…あれだ」

岩場に隠れながら、黒いリックディアスのゲール・ウェゼィンバーグが後ろの2機に話しかける。

S「ん?ああ、あれだね」

白いリックディアスに乗ったスティシーにも確認できた。

J「もうシュミレーション中か、こうやって見ると間抜けだな」

白と黒の百式にのったジョエルも追いつく。

彼等3機には、見えていない。無理もない、ブルーとアナハイム側にしかそれは見えていないのだから。

G「いいのか?これ以上接近するとフォンブラウン領だぞ?」

S「許可は取ってるんだろ?」

J「ん?…ああ、シリウスがやってる…と思う」

S「…はぁ…」

ジョエルのモニターから、ステイシーの落胆する様子が見える。これはきっと帰ったら…いや。今は考えないでおこう。

J「あ~~シリウス?どうなんだ?」

モニターにシリウスの顔が表示された。

Si「フォンブラウンには許可は取ったにゃあ」

Y「アナハイムには?」

Si「…これから…」

S「てめぇ!!」

Si「ひぃぃぃ!!!」

するとシリウスが画面から消えた。

S「あ!おい!コラ!…あんのクソ猫がぁ!」

G「落ち着け。これから取るんならいいじゃないか」

S「…ふん!わかったよ!」

距離にしておよそ8km、ほとんど米粒程度にしか見えないグレイ・ブルーがまるで闇に舞う黒き蝶のように見えた。

J「…相手が見えないが…いい動きしてるな」

幾度も態勢を切り替えてはすぐに攻撃モーションへ移る姿を、ジョエルは相手が空想の物であってもその動きがアグレッシブ、かつ無駄な動きが一切ないことがすぐにわかった。

S「?…ストライカーか。ライフルは…使ってないんだね。ふふ、気に入った」

同じストライカーとして、彼に興味が出てきたステイシー。
久しぶりに見る自分と同じ、零距離で戦う者。
彼女の中で、久しぶりに燃え上がる気持ちが湧き上がってきた。

S「動きに無駄がない。必要最低限の動き…いい腕してるよ」

彼女の言う無駄な動きというのは、サブスラスターなどによる方向転換などを言っているのだろう。グレイ・ブルーじゃAMBAC(Active Mass Balance Auto Control, アンバック)AMBACは能動的質量移動による自動姿勢制御で、宇宙空間で可動肢の一部分を動かすと本体は反作用を受けて逆の方向へという性質を利用し、姿勢を制御する手法だ。

J「あんなもんはストライカーの奴以外でも、誰でもできる。グリプスを生き抜いた男なんだ。そのくらい出来て当たり前だろ」

S「まぁそうだけどね。ジョエル。あんたは時折スラスターに頼る部分がある。あの動きは教本になるんじゃない?」

J「はぁ?俺は計算して動いてるの。お前こそ距離を詰める時の噴射剤を無駄に使ってるだろ?」

少し嫌味交じりな言葉で、ジョエルはステイシーに言葉を返した。
いい年しておきながら、まだ子供っぽいところがあるのは、この会話でもよくわかる。

S「なんだと!?今ここで勝負するか!?」

それはステイシーも同様だ。
そして、それを静観していたゲールが仲裁に入る。

G「いい加減にしろ…目的を忘れるな。隊長…あまりステイシーをからかうな。ステイシーも言葉に気をつけろ」

S「…わかったよ」

J「…ああ。すまなかったな」

いつも通りの会話。彼等が今までチームとしての活動の中で、常に繰り返してきた会話を聞いていたゲールは、何故か安心感すら感じていた。

G「シリウスからの連絡を待ちましょう」

J「だな」

S「りょーーかい」

そして3機は、グレイの舞を再度見学させてもらうことにした。




B「さぁ…昔の俺よ…楽しもうぜ!」

メインスラスターの火が強くなり、グレイ・ブルーは一気に距離を…

いや、それはネモも同じだった。

B「ハッ!やっぱ俺だわ!」

互いの距離は、一瞬で間合いに入り、サーベルのぶつかり合いとなった。

ネモは上段、グレイ・ブルーは下段からの攻撃。本来のブルーなら上段から始めるのがスタイルなのだが、彼は、きっと自分ならこうすると予想してでの攻撃スタイルに変えていた。

ビーム粒子のぶつかり合いで発生した大きな光で、その周辺の闇の空間は、光の空間に変わっていく。

バチバチと大きな炸裂音が空間全体に響いている。その音は何キロ先まで聞こえるのだろう?
ブルーはそんな事を考えていた。まだ余裕がある証拠だ。

上段と下段の攻撃が重なった後、すぐに2手、3手と攻撃を加えていく。

AEの管制室からモニターしているサトウには、若干ネモが押しているように思えた。

グレイ・ブルーが横一閃、なぎ払うようにサーベルを振ると、ネモはそれをかわし、グレイ・ブルーの胴体めがけて突きをしかけた。

B「おお!!??」

予想外というか、シュミレーションでの自分が思ってた以上に早く、そして正確な攻撃にブルーは驚いた。
だがその顔には笑みが浮かんでいた。

サーベルでの突きを行った、ネモの右腕は伸びきっている。

B「ハッ!」

待っていた時が来た。シュミレーションとはいえ、相手は自分のコピー。こちらの動きが回避、防御が続き、大きな隙を作れば…

B「仕留めにくるよなぁ!!」

伸びていたネモの右腕を、上段振り下ろしの形で一閃!

グレイ・ブルーはネモの右腕を切断した。



ネモもそれでは終わらなかった。左腕のシールドで、グレイを跳ね除け、シールドでグレイから死角を作った。

B「ちぃ!」

ジャマなシールドを排除しようと、グレイ・ブルーも左腕のシールドで、ネモのシールドを殴った。

しかしそれこそネモの狙い。相手側には自分が見えていないシールドの奥から、残った左腕でネモのシールドごと突きを行った。

シールドが貫通し、その奥にはグレイ・ブルーがいるはず。



B「おいおいおい。どこ突いてんだぁ?」

ネモのカメラアイが左を向く…と

振り切られたグレイ・ブルーの腕だけが見えた。

ネモからの画像を見ていたサトウは、そこでネモが撃墜されたのがわかった。

Sa「7分11秒…か」

今までどのテストパイロットですら二桁の数字はかかった。いやネモを撃墜できた者もごく僅かでしかいなかった相手を倒したのだ。
レベル設定もマックスになっている。反応速度も、ブルーが使用していたネモよりも早く設定していた。

正直な話。現在のAEで、このネモを一桁の数字で撃墜できる者などいるのだろうか?

サトウは驚愕しながらも、今の戦闘のデータ収集を開始した。


グレイ・ビームサーベルの光が消え、戦闘モードが解除された。

B「…ふぅ」

やはり少し緊張していたのだろう。安堵の息を漏らすと、彼はヘルメットを外した。

B「反応速度が…いや全てにおいて桁違いだ。さすがガンダムタイプってとこか?」

誰に話すわけでもなく、一人それを実感したブルーは、新たな愛機の操縦桿を手でさすった。

B「よろしくな…相棒さん」

月の重力に引かれ、グレイ・ブルーが月面に着陸する。

月面の白い大地の中、目立つ灰色のZガンダム。

これから始まる戦いの前。少しだけ穏やかな時間が、その空間を包み込んでいた。

「宇宙(そら)で出会った者」
上を見上げれば、漆黒の闇。

正面を見れば、太陽に照らされた月の白い大地が広がる。

その大地すれすれを、1機のMSが飛行機形態の「ウェブ・ライダー」で飛行していた。

B「…出力上昇中…1100から1200へ。…いいね。すんなりと上がっていく。さすがアナハイムのエンジニアだ。」

テールスタビライザーと脚部のスラスターから、さらに大きな火が上がっていく。月面すれすれを飛びながらも、「ブルー・イーグル」は愛機の調子がいいことで上機嫌だった。

S「順調ですね。どうですか?Zガンダムは?」

B「…いい感じだが、さすがにネモからの乗り換えだと出力がありすぎてとまどうな」

管制室にいたサトウはパイロットスーツからリンクしているブルーの心拍数や脳波などを見てみるが、数値上では至って平常心を保っているのがわかった。

S「そろそろ1週目が終わります。次はフルでお願いします」

B「了解」

アナハイムの管制室の天井は、超強化ガラスが張り巡らされており、上を向けば宇宙が見える。メカニック達も管制室に集まり、自分達が手塩に調整をかけた機体の状況を見に来ていた。

B「まもなく1週目」

ブルーは管制室を目指して飛行を続ける。その表情は何かおもしろいいたずらを考えついた少年のように輝いていた。

管制官「!?ブルー・イーグル!コースがずれている!こちらに向かってるぞ!」

B「…」

管制室の中が少しざわめき始める。

管制官「ブルー・イーグル!こちらにむかっている!コース修正…!!!!」

彼の言葉がいい終わる前に、管制室の天井の上。星空の中をグレイ・ブルーがロールしながら高速で通り過ぎていった。

メカニック達からは歓声が上がる。管制官は肝を冷やしたようで、ブルーに対して注意をしている。

S「ブルーさん、あまり無茶はしないでくださいね。後で報告書書かれるのは私なんですからね」

そう言いながらもサトウは、ブルーがとった行動を喜んでいた。ブルーができる最大限の感謝を込めての行動だとわかったからだ。

B「せっかくのお披露目ショーなんだ。楽しまなきゃ損ってもんだろ?…2週目、フルで行く、記録を頼む」

S「了解」

管制室の上を通り過ぎた後、彼は手に持つ操縦桿とスロットを更に奥へと押し込んだ。

B「…っぐ!!」

一気に加速がつき、対G性能が備わっているパイロットスーツでもGを強く感じる。

B「…っつぅ…こ…んなに速いのか!」

出力は2500を超え、見えては消えていく景色が、先ほどよりも早く一瞬で見えなくなる。さすがに月面すれすれでの飛行は怖くなった。

S「それでもあまり動揺せず…か。さすがですね」

彼の身体状況を見たサトウが呟いた。もともとオリジナルのZガンダムよりも出力、推力ともに1.5倍ほどの性能を持つ「グレイ・ブルー」を操るには相当の技術が必要だ。それに加えて、パイロットの「度胸」も相当な物がなければできない。

B「っく!!なんとかいけそうだ…方位を118から139への許可を求む」

S「139…わざわざ難しいコースを選ぶんですか?」

B「せっかくの全力なんだ…自分の腕を信用してる。あえて山ぁ選んでみるのもいいだろ?」

S「…了解。方位118から139への変更を許可します。存分にGを味わってください」

B「っへ!言われなく…ても味わうさ!!」

心拍数が上がっているのが自分でもわかる。
正直な気持ちは身体に出てくる。
ヘルメットの中で少し汗をかいている。

緊張
恐怖
不安

どの感覚なのか?自分でもわからない。だがそれを落ち着ける信念が彼を更に前に前に進めていく。

モニターにはPull UPの文字がずっと表示されている。
過去多くのテストパイロットや歴戦の戦士達のデータをフィードバックされたOSの判断でも、彼「ブルー・イーグル」の飛ぶ高度は危険だということが証明されている。
それでも、この高度を再度保つように考えたのは、彼が自分自身の腕を信頼していること以上に、自分の限界を超えることを望んでいるからなのであろう。

これから出会うであろう敵は、きっと今の自分以上の腕を持っていると彼は考えていた。

B「方位、139へ変更…超えてみせる。今の自分を…な」

グレイ・ブルーは更にスピードを増し、眼前に広がるクレーター群に向かって飛び込むように進んでいった。

グレイ・ブルーが方位を変えた頃とほぼ同時刻。

フォンブラウンに駐留していたエゥーゴ第2艦隊所属のアイリッシュ級「アカギ」のハンガーでは3機のMSが発進準備を進めていた。

「え~~っと…うん…ん~~なるほどね」

MSのスペック表を見ていた長髪の男が、コックピット内部で独り言を呟いていた。

「ふむ…やっぱりピーキーだねぇ。まぁリックディアスに乗ってるよりマシかぁ」

「ちょっと~ジョエル!今の発言許せない!リックディアスを馬鹿にするなぁ?いい機体だぞこいつは~。何せMk=2よりも高性能だからね」

ジョエルのモニターにヘルメットをまだ付けていない短髪の女性が表示されている。

J「いあ、別にリックディアスをバカにはしてないよ。スティシーの機体はいい機体だしな」

S「フン!どうだか…それより早く準備しなよ。もうゲールは出てるんだから!」

ステイシーと呼ばれた女性パイロットは、そういい終えるとヘルメットを被り、通信を終えた。

J「ふぅ…さて残りをすませちまうか」

?「じょえる~~聞こえるかにゃ?」

J「あん?シリウスか?聞こえる…けど。またカメラの位置がずれてるぞ?」

Si「ああ~~~またずれてるにゃ。人間視点になってるにゃ」

カメラの視点が下に下がると、ピンと上を向いた耳が見える。

J「まだ、もうちょい下」

Si「…どうかにゃ?」

声の主。シリウスの顔全体が見えた。耳とは正反対にちょっとくたびれた感じのひげが彼の疲労感を感じさせる。

既に長い付き合いのジョエルではまったく違和感はないが…

映像に映っているのは言葉を話す猫だった。

J「ん~~かわいい顔がよく見えるぞ~。てか何でまだメットを被ってないんだよ」

Si「かわいい言うにゃ!…メットは中でヒゲがめちゃめちゃになるから嫌なのにゃ」

彼というかオス猫のシリウス。

旧ジオン軍のフラナガン機関で作られた彼は、機関の中で、脳の色々いじられたらしい。

それにより、本来の猫よりも高度な脳器官を持ち、本来ではありえないはずの言語能力まで身に着けた。

彼の脳は「リフレッシュ」という名の記憶、知識を強制的に植えつけさせられる実験を幾度も行われた結果。人間以上の知識をもった猫となった。

フラナガン機関の詳しい資料が、機関が消滅したと同時に消えてしまったため、そこまでしかわからなかったため、一体何故このようなことが行われたのかはまったく不明だ。

彼、シリウスは一年戦争時、旧ジオン公告第6MS大隊所属、第9艦隊所属の「シリウス」隊に配備され、一年戦争最後の戦闘である「ア・バオア・クー」で、その膨大な知識を使い、シリウス隊を含む第9艦隊の被害を最小限に抑えた功労者である。

空間把握能力に長け、戦術知識はそんじょそこいらにいる連邦の高官などが束になっても相手にならないほどだった。

実際、第9艦隊はNフィールドの激戦の最中、数で圧倒的な戦力差の中、全ジオン艦隊の中で一番被害が少なかったのである。

その彼も終戦後は、普通の猫としての生活には戻れるはずもなく、共に脱出したシリウス隊の隊長の家で生活を送っていたが、再び戦争が始まり、シリウス隊隊長も戦場に出ることを決意。彼もまたエゥーゴの所属となった。そして現在に至る。

J「てか今でもぐちゃぐちゃじゃないか」

Si「これは疲れでこうなってるだけにゃ!!」

S「あーーーーーーーー!!もうそんなくだらない会話はいいからさ!お客さんはどうなってんのさ!」

Si「…人間の女はすぐ怒るにゃ…カルシウム不足と精神的に不安定が見られるにゃ。一度カウンセリングを…」

S「んなこたぁどうでもいいんだよ!!早く説明しろ!このバカ猫がぁ!」

Si「ひぃ!!」

シリウスのピンと張った耳がしゅんと倒れ、世間一般にいう「従属」の態度を取る。こういう部分はやはり猫なんだなぁとジョエルは思った。

Si「お客さんは既に月を2週目に突入したにゃ。3週目に入るのは…およそ17分後になると思うにゃ。」

S「…で?」

Si「…で…ステイシー達とぶつかるのは3週目の中間地点から2分いったくらいになるにゃ」

S「およそねぇ…いったくらいねぇ…」

Si「僕の計算ではそうなるにゃ!!マザーもそう判断してるにゃ!!」

S「ふぅん…まぁいいわ。ジョエル早くしな!時間ないんだから!」

今まで会話を黙って聞いていたジョエルはチューブ飯を食していた。

J「ん!…ああ~わかったよハイハイハイハイ!」

S「ハイは一度でいい!!」

J「ハイ!わかりました!!」

S「ったく…ステイシー・ウェゼインバーグ、リックディアスSC。出るよ!」

ジョエルの反対のカタパルトから白く塗装されたリックディアスが漆黒の宇宙空間に向かい、発進していった。

Si「…彼女は苦手にゃ…なんでいつも怒ってるのかにゃ?」

J「まぁ人間の女っていうのは複雑な生命体なんだよ」

Si「!」

Si「発情期なんじゃ…」

S「帰ったら覚えてろよ…」

ステイシーとの通信を切っていたつもりだったシリウスは、さらに耳がたれて泣きそうな顔になっていた。

よほど「帰った後」のことが怖いのだろう…本能にまで染み込んだ恐怖が彼の体全身から感じる。

J「…あとで謝りにいこうな…」

Si「…うん」

ジョエルがモニターの周囲を見ると、整備クルーも下がり、カタパルトへの移動指示が出ていた。

J「ふぅ…じゃあちゃっちゃと終わらせてくるか」

Si「そうもいかない相手だと思うにゃ」

いつの間にか恐怖の感情が消えていたシリウスからの返答にジョエルは疑問に思った。

J「?何で?」

Si「ただのスポンサー様じゃないってことにゃ。エゥーゴのほとんどの作戦に参加、しかもどこも激戦区だった場所から自分の隊をほとんど全員生還させてる指揮官にゃ」

J「ほぉ…だが指揮だけではな…」

Si「まぁ後はジョエルがどう感じるかだにゃ。準備OKにゃ?」

J「おう!出してくれ」

Si「前方視界、コース、共にクリア。カウント10秒前」

J「…」

ジョエルはモニターの前面、「アカギ」のカタパルトから見える宇宙空間を見ていた。

月の白い大地、宇宙の闇、その先に先行して発進したステイシーとゲールの機体が左右に別れ、旋回している。バーニアの光が、周囲の星々と同じようにチラチラ光っていて、神秘的にも思えてしまった。

Si「カウント5」

4

3

2

1

J「ジョエル・C・ハンター。百式、出る!!」

白と黒に塗装された百式が、カタパルトから射出され、月の白い大地の中へと吸い込まれるように消えていった。

J「さて、お客さんを向かえにいくぞ!ゲールは右翼、ステイシーは左翼につけ!フォーメーションはC3。場合によってはA3でいくぞ」

G「…了解」

S「了解」

J「楽しんで行こうぜ!」


一つの時間の中に、様々なことが起こっていることをブルーはもちろん知らずにいた。
この宇宙(そら)での出会いが彼に大きな影響を与えることなど…

この時は誰も知る者はいなかった。



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